食道がん治療センター
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内視鏡を使って癌を切除します。
内視鏡的治療には内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。
ESDは粘膜下層に薬液を注入し、病変を電気メスで徐々に剥ぎ取る方法です。
高周波メスで粘膜下層を剥離するため、範囲の広い病変でも一括切除できます。
食道がんの深さが粘膜下層までにとどまるがんを表在型食道がんと呼びます。
リンパ節転移がない表在型食道がんが、内視鏡的治療の適応となります。
表在型食道がんはがんの浸潤の深さで6段階に分けられます。
※日本食道学会編:臨床・病理食道癌取り扱い規約第10版補改訂より引用
浅い状態のT1a-EP(M1)またはT1a-LPM(M2)までのがんではリンパ節転移がほとんどないため、本治療のよい適応対象となります。
T1a-MMとT1b-SM1ではリンパ節転移の頻度は10-20%です。
この深さでは、診断的な内視鏡治療を行ない、病理結果によって手術や化学放射線療法を追加するかを決定いたします。
それよりも深いT1b-SM2、SM3の病変ではリンパ節転移は50%程度に認められることから、内視鏡的治療はお勧めできません。
施行年度 | 症例数 |
---|---|
2015 | 105 |
2016 | 123 |
2017 | 156 |
2018 | 154 |
2019 | 103 |
2020 | 118 |
2021 | 135 |
2022 | 144 |
施行年度 | 症例数 |
---|---|
2015 | 45 |
2016 | 51 |
2017 | 61 |
2018 | 62 |
2019 | 52 |
2020 | 44 |
2021 | 45 |
2022 | 48 |
リンパ節転移の有無に関わらず、癌の深さ(深達度)が粘膜下層までにとどまるもの(固有筋層にいたらないもの)を食道表在癌といいます。
癌が粘膜内に留まっているものを、特に早期食道癌といいます。
食道表在癌の中でも、粘膜筋板あるいはごくわずかに粘膜下層に浸潤している(深達度SM1)場合は約5%にリンパ節転移があるといわれ、それ以上深く浸潤している場合には約50%程度にリンパ節転移を認めるといわれています。
食道癌の治療は、進行度によって、内視鏡切除、外科切除、化学療法(抗癌剤治療)、放射線治療、放射線化学療法などさまざまな治療方法があります。
以前は食道表在癌であっても外科手術を行い、食道と周辺のリンパ節を切除(リンパ節郭清)していました。
しかし、治療技術の進歩により、リンパ節に転移している可能性が極めて低い食道癌に対しては、癌を含む粘膜病変部だけを切り取る「内視鏡的治療」ができるようになりました。
特に従来行われていた内視鏡的粘膜切除術(EMR)と比較して、より深い層(粘膜下層)で癌を一括で切除できるESDが開発されました。
内視鏡的治療は外科手術に比べ、おなかに傷がつかず、食道の機能を保てる上に入院日数も比較的短期間で退院できる利点があります。
【食道癌ESD】
【咽頭ESD】
ESD治療は「転移の可能性がほとんどない表在食道癌」が対象となります。
具体的には下記の条件を満たすもの(日本食道学会ガイドライン)が対象となっています。
※異型上皮(癌まではいかないものの細胞の異型を認め、前癌病変と考えられるもの)の場合も今後高率に癌化する可能性があると判断した場合には、同様の治療をすることがあります。
上記以外は、原則的には内視鏡治療の適応外となり、放射線療法、化学療法、放射線化学療法、手術などの治療を検討することになります。
なお、食道癌に関しては深達度やリンパ節転移の有無の完全な診断が難しいため、診断的にESDを行うこともあります。
通常の胃カメラ検査と同じようにベッドの上に寝ていただき、のどの麻酔を追加します。
治療を始める前に点滴を開始し、苦痛を減らすための鎮痛剤と緊張を和らげる鎮静剤を注射します。
術中にヨードを散布することで術前には気が付かなかった別の病変が見つかる場合があります。
一度に切除できる場合には切除しますが、時間的な制限や狭窄を来たす可能性などを考慮し、一度に切除することは困難と判断した場合には後日再度治療することとなります。
数%の頻度です。
治療後に吐血や黒色便を認めることで気がつきます。
これらの症状を認めた場合は、内視鏡的に止血します。 多くの場合には保存的に経過を見ることができますが、貧血が高度に進行した場合には輸血を行うこともあります。
数%の頻度です。
治療中に穿孔すると食道の外の縦隔というスペースに空気がたまります。 また、炎症が起こり縦隔炎を起こすこともあります。
治療中に穿孔を認めた場合には、内視鏡下にクリップを使用して穴を閉鎖することで保存的に経過をみることできることが多いです。
治療後数日経ってから、穴が開く場合もあります。(発熱と腹痛などの症状が出ます)
保存的に経過を見ていても症状が悪化した場合には外科的な手術を検討することも稀にあります。
数%程度の頻度です。
治療中に鎮静剤を使用する影響で、唾液を誤嚥し、肺炎になることがあります。
治療翌日にレントゲンで確認を行い、必要に応じて抗生剤を投与します。
鎮静剤・鎮痛剤など治療に使う薬によって副作用が起きる場合があります。
お薬などにアレルギーなどがある方は前もっておっしゃってください。
上記の偶発症が発生した場合は、緊急内視鏡や内科的な処置で対応できることがほとんどですが、まれに外科的処置や輸血が必要になるケースもあります。
ごくまれではありますが、死亡例の報告もあります。
実際に偶発症が起きた際は、食事の開始や退院時期を延期させていただく場合があります。
切除範囲の大きさ、切除部位によって頻度は異なります。
一般的に喉に近いほど、病変の大きさが大きいほど狭窄の可能性は大きくなります。
治療前に狭窄があらかじめ予想される場合には狭窄の予防目的にステロイドの局注や内服などを行う場合があります。
また、最近ではポリエチレングリコール(PEG)シートを貼付することで予防できるとの報告があります。
なお、ステロイドを使用する場合には、ステロイドの免疫力の低下させる作用による結核やB型肝炎の再活性化を促す可能性があるためあらかじめこれらに対する既往の感染がないかを採血などで確認し、既往感染が疑われる場合には原則行わないこととしています。
また、術後に食道狭窄が起こり、食物が通過できない状態になった場合にはバルーンによる拡張術などを検討します。
抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)の内服は、出血のリスクとなります。
抗血栓薬を中止することが望ましいですが、休薬による血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓など)の危険が高い場合は、内服を継続したまま治療を行います。
これらの薬を内服している方は処方されている先生と相談し、内服の中止や点滴への変更などを検討させていただく場合があります。
なお、バルーン拡張などを行う際にも抗血栓薬は中止したり点滴へ変更したりする必要があることがあります。
切除標本の病理評価の結果は約1-2週間で判明します。
癌の組織型・深達度・切除断端(深部・側方)などを病理学的に調べ、前述の根治条件を満たしているか検討します。
病理検査の結果、切除した断端に癌が存在していた場合は、追加のESDや焼灼術を行うことがあります。
また、病変が取り切れていても粘膜下層の深い層に浸潤が認めた場合やリンパ管や血管などに癌が浸潤していた場合などは放射線治療、抗癌剤治療、外科手術などの追加治療が必要になります。
ESD以外の治療方法として外科手術、放射線治療、抗癌剤治療などの単独あるいは併用する治療法があります。
外科手術ではリンパ節郭清(切除)も行うため、リンパ節転移の可能性のある場合に行われる治療となりますが、手術自体や手術後の体への負担は大きいものとなります。
抗癌剤治療や放射線治療も食道癌に対する効果的な治療とされていますが、腫瘍を完全に治療できない可能性や合併症が強く出る場合があります。
また、治療を行わないという選択肢もありますが、その場合は癌が進行し、生命をおびやかす可能性が高くなります。
通常は翌日の採血・レントゲンで問題がないことを確認し、発熱、腹痛、吐血(血を吐くこと)、黒色便などの症状がなければ、通常は食事を再開します。
ただし、出血や穿孔のリスクが高いと考えられる場合は、禁食期間を延長することがあります。
食事開始後の経過が順調であれば、約1週間後に退院が可能か再度内視鏡検査を行います。
退院後に関しては、治療後の潰瘍が治癒したことを確認するまで(約6週間)は、飲酒、旅行、出張、激しい運動は禁止していただきます。
治療後に飲酒・喫煙をすることで再発のリスクが高くなります。
禁酒・禁煙をすることで再発のリスクを低下させることができますので、禁酒・禁煙を強くお勧めします。
退院後は外来で定期的に検査を行い、再発や別病変の出現がないかを見ていきます。
その他に不明なことがあれば、いつでも主治医にご相談ください。