呼吸器センター内科

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はじめに / 間質性肺炎とは

 肺癌や悪性胸膜中皮腫といった悪性腫瘍と比較して、「非腫瘍性肺疾患」という疾患群があります。その中に、気管支喘息や肺感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と並んで「びまん性肺疾患」という疾患群があります。間質性肺炎とは「びまん性肺疾患の中でも肺の間質と呼ばれる部分に、線維化とか炎症といった病的な変化が起こることにより、肺が硬く縮んでしまった結果、進行してしまうと呼吸がしにくくなり、息切れする病気」です。線維化=肺が硬くなる病的変化、という意味で、「肺線維症」と呼ぶ場合もあります。
 本疾患群の大部分は厚生労働省の指定難病です。ご提案できる治療手段が20年前には全くありませんでしたが、現在では目標を持った治療が可能となりました。しかし、全国的に本疾患群の治療を専門とする呼吸器内科の医師が少なく、診断もさることながら、必要な治療薬を患者さんに十分にお届けできる体制にあるとは言い難いと思います。当院のように本疾患の専門的な診断・治療ができる病院は全国的にも珍しく、専門的な診断、治療方針を患者さんにお届けし、多くの方に適切な治療をお届けできるようにしたいと考えています。
 患者さんに病状を正しく理解していただき、適切な治療を継続するためには、その合併症や併存症、治療開始後のフォローなど、患者さんの病状に合わせて様々な問題を解決する必要がありますので、全てを呼吸器内科医の力だけで遂行することは難しい部分が多々あります。当院では従来から診療科間の親密な繋がりをお互いに大切にし、患者さんにとって最も必要な医療を適切な診療科が治療にあたることができるよう心がけてきました。多職種・多診療科が治療に参画することで、これまで以上によりスムーズに患者さんの治療が実現できると考えています。

間質性肺炎の原因

 原因を専門施設で調べてもわからない(今の医学で究明できない)場合は、「特発性=原因不明」と言い、特発性間質性肺炎と診断します。真菌(=カビ)や、鳥の糞・羽毛といった有機物(鳥関連抗原と言います)などを持続的に吸入してしまうことでアレルギー反応を起こす病気(過敏性肺臓炎)や、関節リウマチ(関節が炎症を起こし痛みが出て関節が破壊される病気)、強皮症(皮膚を中心に色々な臓器が硬くなる病気)、皮膚筋炎(皮膚と筋肉の炎症が起こる病気)などの膠原病という疾患群に間質性肺炎が合併する場合、抗がん剤・抗生物質・漢方薬などの薬剤が原因で発症する場合、など、原因が明らかになる間質性肺炎もあります。

間質性肺炎の診断

原因診断

 診断はアレルギーや膠原病を疑う生活背景や身体所見がないか、問診票を記載していただき、診察時に色々伺います。また、採血をおこなって膠原病や過敏性肺臓炎診断の一助とします。気管支鏡検査を実施して、気管支肺胞洗浄といって生理食塩水を肺の一部に注入し、これを回収、回収液に浮遊している細胞などを分析します。また、気管支鏡検査では局所麻酔下にクライオ肺生検といって8-10mm大の肺組織を生検することができます。クライオ生検で診断がつかない場合には外科的肺生検といって、呼吸器センター外科と協力して全身麻酔下に肺組織の生検(3cmくらいの大きさで診断できる)を行うことができる体制になっています。どのような生検技術を使うか、組織生検自体が必要か、個々の患者さんのコンディションを見極めてご提案いたします。

重症度診断

 間質性肺炎が疑われた患者さんの個々の重症度を判断し、すぐ治療ないといけないのか、少し経過観察しても良さそうかを判断します。主に肺機能検査、6分間歩行試験といった検査を実施します。これらは診断初回のみならず、定期的に実施し、治療効果判定を適切に行えるように体制を整えています。

疾患の確定診断

 間質性肺炎の診断には「多職種による協議による診断手法: MDD multidisciplinary discussion」という、他の疾患には馴染みが薄い診断手法を使います。胸部画像診断医、肺病理専門医、呼吸器内科医が一同に会し、一人の患者さんの臨床情報を共有して、各専門家の意見を出し合うことで、精度の高い診断を行うというものです。すなわち、特に病理組織所見、画像所見を専門家としての意見を合わせ、議論することで、ひとりの呼吸器内科医の独断にならないようにする工夫がされています。
 種類がたくさんあり、診断が非常に難しい疾患であるので、診断名をひとつに確定できない場合もあります。しかし、複数の医師が協議することによって、可能性が高い疾患を患者さんに提示し、それに基づいて治療が始められるように工夫します。つまり「診断が確定できない=治療できない」とならないようにする工夫を行います。実際、様々な情報を合わせても原因不明(特発性)のことがありますが、特発性間質性肺炎という診断となっても患者さんには治療がご提案できるようになっています。当初、特発性間質性肺炎と考えられた患者さんが、1〜2年経って、関節リウマチを発症し、「関節リウマチに伴う(原因がある)間質性肺炎」であることが後からわかることもあります。
 診断には時に組織検査が必要です。全身麻酔科に実施する外科的肺生検が主流でしたが、近年は局所麻酔+鎮静剤を使用することで気管支鏡を用いてクライオ生検が実施できるようになり、比較的患者さんに侵襲(お身体への負担)が少ない検査が実施できるようになりました。必要な方には外科的肺生検をお勧めすることもありますが、呼吸器センター外科、内視鏡部との密な連携によって患者さんにベストと考える検査法をご提供しています。
 病理診断・画像診断にも比較的専門性の特化した肺病理医・呼吸器放射線診断医が不可欠ですが、当院には肺疾患を専門とする病理医・放射線科医が在籍しています。上記のMDDは、呼吸器内科専門医以外に、胸部放射線診断医、肺病理専門医がいないと実施できません。多くの病院で3者が揃っておらず、苦労していますが、虎の門病院では、3者が週1回集まるカンファランスを開催し、MDDを実施できる体制をとっています。このように患者さんにとって遅延なく診断できる仕組みがあります。
 精密検査を経ても原因が同定できない「特発性間質性肺炎」はさらに7つの病型に分かれます。その中でも特発性肺線維症は最も診断頻度が高く進行性になる可能性があるので、早期に適切な診断をすることが重要です。

間質性肺炎の治療

 間質性肺炎の原因は様々です。主に、「線維化」といって肺がヘチマスポンジのように硬くなってしまう病的な変化と、「炎症」といって肺の中に、喉が風邪で赤く腫れてしまった変化と同じような反応が起こる場合とあります。それ以外の変化が起こることもあります。診断のプロセスで、疾患名を確定することと、「線維化」「炎症」どちらが優位に起っている病状なのかを判断します。
 結果、「線維化」が主な変化と判断された場合に「抗線維化薬」という種類の薬剤を、「炎症」が優位の場合にはステロイドや免疫抑制剤を言われる種類の薬剤を選択します。病状によってはこれらを両方使うことをおすすめする場合もあります。
 治療を開始してもさらに病状が進行してしまう「進行性フェノタイプ」という病状を呈することがあり、適切なタイミングで治療の変更を要します。一方、診断時点で、非常に軽症であり肺機能検査などの結果から肺機能に障害がなく、自覚症状がない場合には治療を開始せずに経過観察することもあります。そのような場合には定期的に検査を実施し、「進行性フェノタイプ」に移行しないかどうか慎重に経過を診ます。
 特発性肺線維症をはじめとする特発性間質性肺炎は厚生労働省の指定難病となっており、一定の医療費が必要となる患者さんには医療保険制度以外に難病医療券を受給することで医療費負担を軽減する制度があります。

間質性肺炎の合併症・併存症

 基本的に間質性肺炎は肺の病気です。間質性肺炎の患者さんには、原発性肺癌、肺真菌症(肺アスペルギルス症)、肺抗酸菌症(肺結核、非結核性抗酸菌症)などの別の肺疾患を合併しやすいことがわかっています。また、肺高血圧症といって心臓の疾患を合併することもあります。比較的ご高齢の方が多いので、糖尿病や心血管合併症や栄養障害、嚥下力低下を伴う方もいらっしゃいます。
 上述した、膠原病に合併する間質性肺炎の場合は、当然のことながら膠原病の治療も必要です。肺以外の悪性腫瘍に抗がん剤や免疫抑制剤を使用中に間質性肺疾患を合併することもあります。
 急性増悪という独特な合併症があります。本来、本疾患は6ヶ月以上の期間を経てゆっくり進展する慢性型と数週〜数ヶ月で発症進展してしまう急性・亜急性型の疾患に大別できます。前者が数週間の経過で急に呼吸状態の悪化を呈する場合があり、これを慢性間質性肺炎の急性増悪と呼びます。急性増悪は一度発症すると予後不良で亡くなる可能性が高い合併症です。早期発見。早期治療が原則です。動いた時に息切れし安静に戻ると症状も改善する、という自覚症状から始まるので普段通りの運動で普通は感じない息切れを感じたら病院を受診していただくことが肝要です。

予後

 従来から「特発性肺線維症」は予後不良で無治療では平均予後が診断後2~4年とされました。2010年ごろに抗線維化薬が保健適応となり使用できるようになって、本疾患の予後は延長しているといわれますが、日本人の疫学調査が現在進行中です。

虎の門病院の取り組み〜患者さんのために〜

 虎の門病院では普段から診療科間の親密な繋がりを活かして、患者さんにとって最も必要な医療を適切な診療科が実施できるよう心がけています。多診療科・多職種が当センターに参画し、集約的・全身的な治療をご提案できる体制をとっています。つまり、間質性肺疾患自体の診断・治療に加え、原発性肺癌や肺感染症などの他の呼吸器合併症に対応すべく呼吸器内科専門領域の知識が豊富な医師がいるだけではなく、肺高血圧などの循環器合併症や間質性肺疾患の併存疾患である膠原病を適切に治療できるようにリウマチ・膠原病科および循環器センター内科との連携を充実し、遅延なく患者さんに治療をお届けできる体制になっています。
 抗線維化薬やステロイドなどの治療薬は副作用を適切にコントロールしながら長期にない服を継続する必要があり、看護師や薬剤師によって継続的に患者さんが内服できるようにご支援を行う環境を整えつつあります。
 病状次第では急性間質性肺炎として時にnasal high flow therapyや人工呼吸管理を要する患者さんもいらっしゃいます。集中治療室で治療する場合もあります。ここでは、集中治療科や臨床工学技士の協力のもとに、チームで集中治療ができるように体制化されています。ご高齢な方や他の併存疾患を抱える方も多く、フレイルと言って痩せが進行して呼吸困難が出現する方もいらっしゃいます。リハビリテーションや栄養療法が必要な患者さんには、リハビリテーション部、栄養部。高齢者診療部との連携をおこなっています。

がん診療との関わりについて

 当科ではたくさんの原発性肺癌の患者さんを診療しています。間質性肺炎の患者さんが肺癌を発症することがあります。間質性肺炎の患者さんががん治療を受けようとすると、「間質性肺炎急性増悪」という病態が問題になることがあります。時には命に関わる重篤な合併症です。当院の呼吸器センター外科では間質性肺炎合併肺癌の患者さんも多く手術しています。残念ながら進行癌で発見され抗がん剤を必要とする方は呼吸器センター内科で治療します。「間質性肺炎急性増悪」も肺癌治療も適切に治療できることが求められますが、当院では内科・外科はセンターとして一体となって活動しており、手術・抗がん剤いずれの肺癌治療を受けておられても、間質性肺炎の治療も同時並行的におこなっていきます。
 虎の門病院では多くの診療科で活発に癌治療が行われています。抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、各臓器の癌に有効な治療薬がたくさん使用されるようになりました。薬剤性肺傷害は稀ですがどの癌腫にも一定の割合で発症する命に関わる合併症で、薬剤に刺激されて肺に炎症・線維化が起こる病気です。間質性肺疾患の専門家の視点で、肺の中で何が起きているのか、気管支鏡などを用いて適切に診断し、薬剤性肺傷害の治療をご提案、各診療科と連携してがん治療が少しでもスムーズに継続できるよう協力しています。

最後に

 虎の門病院の診療は、患者さんに「ここで診てもらってよかった」と言っていただける医療を目指します。医師だけではなく、あらゆる医療従事者が患者さんのために何ができるのか、常に考える医療現場でありたいと考えております。忌憚なきご意見をいただき、環境の充実を図っていきたいと思いますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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