放射線科
このページを印刷
このページを印刷
虎の門病院の放射線科は、核医学検査・治療を扱う診療科です。「放射線管理区域」と呼ばれるエリアにおいて、放射性薬剤を患者さんの体内に投与して検査や治療を行います。放射性薬剤は多くの種類がありますが、臓器の血流や代謝、活動性の高い病変部、ホルモン・神経伝達物質の受容体などを映し出すトレーサー (追跡子)の役割を果たし、脳・心臓などの機能、癌や炎症の有無、内分泌疾患の診断や治療を可能にします。診断用の放射性薬剤は体内に留まる時間が短く被ばくによる身体影響がないもの、治療用の放射性薬剤も病巣以外への副作用が極めて低く安全なものが使われます。
近年の「核医学」は医療機器や医薬品の進歩とともに目覚ましい発展を遂げ、三大疾病とされる癌、心疾患、脳血管疾患だけでなく、超高齢化社会において重要な認知症の診断にも欠かせないツールとなっています。また、PET (Positron Emission Tomography;陽電子断層撮影)は核医学技術の粋を集めた検査で、分子レベルで癌の診断から治療までを一気に行うセラノスティクスという分野において今後更なる活躍が期待されています。当科は診療各科と連携をしながら、こうした最先端医療にキャッチアップを続けています。
PET検査用装置2台(うち1台は画像診断センター)、他の核医学・SPECT検査用装置3台があります。扱う放射性薬剤は25~30種類に及びます。
PET/CT装置 | Biograph Vision(シーメンスヘルスケア株式会社) | 1台 |
Biograph mCT Flow(シーメンスヘルスケア株式会社) | 1台 | |
PET用自動投与装置 | UG-1000M(ユニバーサル技研) | 2台 |
SPECT装置 | Symbia Intevo(シーメンスヘルスケア株式会社) | 2台 |
GCA-9300R(キャノンメデイカルシステムズ) | 1台 |
当院のPET検査にはBiograph VisionとBiograph mCT Flowを用いています。いずれも、以下の3点を特徴としています。
①短時間で高画質な画像、呼吸同期画像の提供が可能
両装置ともに、小さい病変を正確に検出することができます。また、新しい呼吸同期システム(OncoFreeze)の導入により、短時間で高画質の画像を得ることができるようになりました。
②開口径が広い
開口径が78cmと大きく、大きな体格の方まで快適に利用できる設計となっています。このことにより、閉所恐怖症でMRIの撮影が苦手な方でもPET/CT検査は可能な方がほとんどです。撮影時は基本的に仰向けに寝ていただきますが、仰向けが辛い方には横向きでの撮影や背中にタオルを入れるなど臨機応変に対応いたします。
③途中で検査中断となってしまっても安心
当院のPET/CT検査はFlowmotion技術(速度可変型寝台連続移動技術)を応用したwhole-body Dynamicシステムを採用し、約5分の全身撮影を4回繰り返し、4回分のデータを加算しています。従って、万が一途中で検査中断となってしまった場合でも、見たい病変が全く撮影されていないということは起こりにくくなります。
UG-1000MはPET検査のための放射性薬剤を投与する装置で、FDGを投与する際の体重に合わせた投与量の設定が可能です。放射性薬剤からの過剰な被ばくを抑えることができます。
当院には2種類、3台の装置があります。
SPECT/CT装置であるSymbia Intevoは、3D OSEM、CT減弱補正、逐次近似散乱補正といった最新の画像再構成機能を有し、SPECT画像の定量化に優れるとともに、きれいなCT重ね合わせ画像を提供します。
頭部検査に用いているGCA-9300Rは3検出器型のSPECT装置です。高分解能のファンビームコリメータを搭載しています。
放射線科で実施している主な核医学検査・治療 | ||||
---|---|---|---|---|
項目 | 内容 | 使用核種 | 被ばく量 | 撮影範囲 |
FDG-PET/CT検査(保険) | 癌・悪性腫瘍の病期診断、転移再発診断 心サルコイドーシスの炎症活動性評価 大型血管炎の炎症活動性の評価 |
18F-FDG | 4mSv~ | 全身 |
FDG-PET/CT検査(自費) | 不明熱、関節炎などの炎症疾患の評価 癌罹患後のフォローアップ(再発疑いではない) 腫瘍マーカー上昇の原因精査など |
18F-FDG | ||
FDG-PET/CTがん検診 | がん検診として本邦では定着 ガイドラインも整備 |
18F-FDG | ||
アミロイドPET | アルツハイマー病におけるAD病理の可視化 | 18F-Flutemetamol | 頭部 | |
心臓SPECT | 心筋血流の評価(安静および負荷) 心筋脂肪酸代謝 心筋交換神経の評価 心アミロイドーシスの診断 |
201Tl-TlCl, 99mTc-tetrofosmin 123I-BMIPP, 123I-MIBG, 99mTc-PYP |
0.5mSv~ | 心臓 |
脳SPECT | 脳血流(安静およびDIAMOX負荷) 神経伝達機能(DAT, BZR) 脳神経MIBG (DLB用) |
123I-IMP, 99mTc-ECD 123I-Ioflupane, 123I-Iomazenil, 123I-MIBG |
頭部 | |
肺換気・血流 | 肺のガス交換と血流のミスマッチの評価 | 81mKr gas, 99mTc-MAA | 胸部 | |
腎 | 腎アンギオ 腎静態 |
99mTc-DTPA, 99mTc-MAG3, 99mTc-DMSA | 腹部 | |
骨シンチ | 骨転移その他の骨疾患の診断 | 99mTc-MDP, 99mTc-HMDP | 全身 | |
ガリウムシンチ | 67Ga-クエン酸Ga | 全身 | ||
副甲状腺シンチグラフィ | 過機能副甲状腺腫の診断 | 99mTc-MIBI | 頸部 | |
唾液腺シンチ | シェーングレン症候群の評価など | 99mTcO4- | 頸部 | |
副腎皮質シンチグラフィ | クッシング症候群、原発性アルドステロン症 | 131I-adosterol | 腹部 | |
オクトレオスキャン | ソマトスタチン受容体の可視化 | 111In-DTPA-octreotide | 患部 | |
131I 治療 | 甲状腺機能亢進症など | 131I |
FDG-PET/CTは、18Fで標識したFDGというブドウ糖によく似た放射性薬剤を腕などの静脈から注射して全身を撮影し、癌・悪性腫瘍の病期・転移再発診断、炎症性疾患の活動性を評価する検査です。多くの診療ガイドラインで治療方針の決定に使用が推奨されていますが、これはFDG-PET/CT検査が 全身評価に有用で、かつ、病巣の活動性を見ることができるからです。
例えば、食道癌で手術を予定されていた方にFDG-PET/CT検査を実施したところ肺癌もみつかり、二重癌の治療を計画的に受けることができた例(症例1)があります。また、悪性リンパ腫で治療を受けられた方では、化学療法の前後で比較し、治療を終えて良いかどうか、治療内容の変更をすべきどうかなどを判断することができます(症例2)。
心サルコイドーシスや大型血管炎などの炎症性疾患においても、炎症の強さを調べ、ステロイドなどの治療を行う必要があるかどうかを知ることができます(症例3,4)。
なお、FDG-PET/CT検査の保険適用は、癌・悪性腫瘍において他の検査で病期や転移・再発を確定できない場合と、心サルコイドーシスと大型血管炎の炎症活動性の評価目的となっており、その他では自費や検診での利用が求められています。
2023年から保険適用が認められたアミロイドPET検査は、アルツハイマー病による早期認知障害や早期認知症における疾患修飾薬の使用の可否を判断するための検査として位置付けられています(症例5)。なお、アミロイドPET検査については、画像診断センターHPで詳細を説明しています。
→ 画像診断センター
脳血流SPECTは、脳内に拡散する物質を用いて、脳の血液の分布を詳しく調べる検査で、脳血管疾患や認知症の診断に使用します。
当院では特に脳血管の手術を予定されている方にアセタゾラミド(ダイアモックス®)という検査薬を併用して脳の血管がどれくらい血液を流す力を持っているか(脳循環予備能)を調べる検査を行っています。脳循環予備能は手術の後の合併症の予測に役立ちます(症例6)。
また、認知症診断の脳血流SPECT検査も重要です。認知症にはさまざまなタイプがあることが分かってきていますが、脳血流SPECTは脳血流が低下している場所やその広がり方から、認知症のタイプや進行具合を評価するために使用します(症例7)。
心筋血流SPECTは心臓の筋肉(心筋)の血流分布を詳しく調べる検査です。最も多く行われているのは負荷心筋血流SPECTで、狭心症の診断や重症度評価、治療方法の決定などに用います(症例8)。
核医学治療としては、去勢抵抗性前立腺癌の骨転移に対するRa-223治療、甲状腺疾患(バセドウ病など)に対するI-131治療を行っています。
PET/CTがん検診の詳しい説明はこちら → 画像診断センターHP、ドックHP
アミロイドPET検査の詳しい説明はこちら → 画像診断センターHP