転移性肝腫瘍高度集学的治療センター

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転移性肝癌に対する外科的切除のうち世界的に最も多く行われているのは大腸癌の肝転移に対する切除であり、当院で扱う転移性肝癌症例の95%は大腸癌の肝転移です。大腸癌は他の消化器がんと異なり、肝臓や肺に転移していてもすべてを切除可能であれば、一定の条件で根治が期待できる数少ないがんの一つです。近年では効果の高い抗がん剤や分子標的薬が使用可能となっており、初回の診断時点で切除不能と判断されても、抗がん剤治療によって手術が可能な状態にまで持っていくことが可能な症例が多く存在しています。

参考として当院肝胆膵外科の大腸癌肝転移初回切除の治療成績を以下に提示します(調整後生存曲線 n=323)。左は無再発生存率(再発のない症例の割合)、右は全生存率(生存している症例の割合)を年代別にみたグラフです。当院が扱う症例は、大腸癌の診断時すでに肝転移を有するもの(同時性肝転移)、転移巣の個数が多いもの、肺転移を有するものなど、他院と比較して進行度や治療条件の厳しいケースが多いという特徴があります。左のグラフに示すように、大腸癌肝転移は切除を行っても約6割の症例が2年以内に再発をきたし、これは治療の年代によらずほとんど改善がありません。がんの「再発」とは新しくがんが発生することではなく、前回治療の時点で既に存在していた顕微鏡レベルの病変が、時間をかけて目に見える大きさにまで育ったものであり、目に見えない大きさの病変を検出する方法は残念ながら現在の医学にはありません。一方、右のグラフに示すように、大腸癌肝転移症例の最終的な生存率は年々上昇していることが分かります。これは再発に対して適切な治療が行われるようになっていることを示す結果であり、大腸癌肝転移の再発病変に対する積極的な切除や多職種連携による診療体制の整備を行ってきた成果と考えています。

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図1.大腸癌肝転移初回肝切除後年代別無再発生存率、全生存率

ステージIVである大腸癌肝転移の生存予後を延長するために大きな後ろ盾となるのは、適切な化学療法のマネージメントと諦めない手術治療介入です。先に触れたように近年ではさまざまな薬物治療が使用できるようになり、抗がん剤治療によって技術的に根治不能な状況から切除可能な状況にまでもっていく「コンバージョン手術」の重要性が議論されるようになってきました。参考として図2に2014年から2015年にコンバージョン切除を達成した25例の生存成績を、2008年から2017年に当院下部消化器外科で大腸癌原発巣切除を行った3,303例のステージ別の生存成績と比較して示します。初診時切除不能と判断されながらも化学療法によって手術にたどり着くことができた高度進行癌症例25例の生存成績(紫)はステージIV全体の生存成績(青緑)と比べて明らかに良好であることが分かります。高度進行癌に対する集学的治療の一環としての外科的切除の意義はさまざまな観察研究で示されており(Adam R, Oncologist 2012;17:1225-39他)、当院では門脈塞栓術、二期的切除など様々な工夫により安全かつ根治的な肝切除術を限界まで追求しています。

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