泌尿器科

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メッセージ

当科は高度先進医療を担いながら、良性悪性を問わず、幅広い疾患に対応できる診療体制を整えています。中でも泌尿器悪性腫瘍の手術を特に得意としております。前立腺がんではロボット支援手術、膀胱がんなどの尿路上皮がんや腎がんでは腹腔鏡下手術や機能温存手術など、可能な限り低侵襲な治療を心がけています。一方、進行がんであっても根治を目指して、拡大手術や転移巣切除に加えて、外科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医とも緊密に協力しながら、手術・薬物・放射線などを組み合わせた集学的治療も行なっています。良性疾患である前立腺肥大症や尿路結石ではレーザーを用いた内視鏡手術導入しており、重篤な泌尿器感染症では感染症科と連携しながら治療にあたっております。
また、当院は内科、外科、麻酔科をはじめ様々な診療科医師や看護師、薬剤師、技師、事務など他職種医療従事者など専門家がそろっている大規模総合病院のメリットを生かした協力診療体制を特色としています。高齢や合併症をお持ちで他院での手術が心配な方や他院で手術困難と言われた方でも当科では手術が可能な場合もございます。
さらに当科は患者さんの希望に沿い、患者さんの身体・心理・社会的立場などを考慮する全人的立場から、患者さんの病気に基づいた患者さんを中心とした個々に適した個別化治療を心掛けています。
治療を受けられる患者さん皆様に満足して頂ける安心・安全な高度医療をお任せいただけるよう、スタッフ一同たゆみない努力を続けておりますので、お困りの方は一度当科にご相談ください。

扱う疾患

悪性疾患

前立腺がん

前立腺は男性にしかない精液を造る生殖関係の臓器です。近年、高齢化や食生活の変化、検診によるPSA検査(前立腺の腫瘍マーカー)の普及により急増しており、2016年前後から本邦では男性の年間罹患者数がトップになりました。ただ、国立がん研究センターの発表にございますように5年生存率が99%と非常に高いことが特徴で、早期に発見できれば根治しやすいがんと言えると思います。そのため、早期の前立腺がんの一部では、他の臓器のがん診療では珍しい監視療法という選択肢もあります。しかし、どのようながんでも進行すれば命に関わるのは前立腺がんも同様です。がんの広がりが前立腺に限局していれば手術治療や放射線治療が、遠隔臓器へ転移を認める場合には薬物治療(ホルモン療法、抗癌剤など)が勧められます。最近では遠隔臓器に転移を認めていても、その場所や転移の数によってはホルモン治療を中心に、手術治療や放射線治療を組み合わせ、より根治に近づけるために集学的治療を行っています。
当科の特徴は、まず前立腺がんが疑わしい患者さん全員にMRI検査を行います。続いて診断を確定するために必要な前立腺生検を行いますが、得られたMRIの画像情報を前立腺生検の超音波検査に融合(フュージョン生検)して行うことで高い精度で検査を行っています。そして、放射線診断科および病理部診断科と密に連携をとって正確な進行度診断を行っていることと、ロボット支援手術です。近年は手術も増加傾向にあり年間およそ120件前後となっています。腹腔鏡手術の延長線上にある進化した手術治療ですが、腹腔鏡手術を黎明期から取り入れ行なってきた当科のノウハウを生かして、前立腺がんの手術治療のほぼ100%をロボット支援手術で行なっております。また、その内容においては、術後疼痛、尿もれ、勃起機能などその後の生活の質(QOL)向上を目指し、低侵襲性と機能温存に拘って手術を行っております。一方、悪性度の高い進行した前立腺がん対しては高制癌性にも拘り、拡大切除やリンパ節廓清の必要性および性機能温存の可否を判断しています。

膀胱がん

血尿という症状から診断に至るケースがほとんどです。膀胱がんは膀胱の内側から発生し、進行すると膀胱の筋肉にまで到達します(筋層浸潤)。筋肉に到達しているかどうかで大きく治療法が異なります。筋肉に到達していない浅い場所までの浸潤であれば、経尿道的手術(TURBT)や膀胱内注入療法を行うことで原則根治することが可能です。ただし、筋層浸潤を認めない膀胱がんは再発率が高いことが特徴です。再発率を下げる工夫として、術後に膀胱内へBCG(ウシ型弱毒結核菌)を注入する治療(免疫療法)や抗癌剤を注入する治療を行い可能な限り再発率の低下を試みています。また、2017年から使用可能となりましたアミノレブリン酸塩酸塩という薬剤を内視鏡手術の前に内服していただくことで腫瘍病変(がん細胞の集まり)を発光させ正常細胞と見分けやすくる光力学的診断(PDD)を利用しております。筋層浸潤を認める膀胱がんは、標準的には膀胱全摘治療が勧められます。術前の抗がん剤治療による補助治療、手術治療の中でも開腹手術から腹腔鏡手術、ロボット支援手術と選択肢がございます。さらに膀胱を全摘した後の尿路の変更には、通常は小腸の一部(回腸)に尿管をつないでその回腸の一端を腹部に誘導して(ストマ)、そこに袋を取り付ける回腸導管を作成します。しかし患者さんによっては回腸を利用した自排尿型新膀胱造設術(尿道を利用して腹圧で自分で排尿が可能)を行うことがあります。近年、ロボット支援手術の普及に伴い膀胱の摘出から尿路の変向までをすべて体内で行う方法で行っております(体腔内尿路変向)。きずが小さく術後の回復が早いメリットがあります。どなたでも可能という訳ではございませんが、それぞれの治療法の特徴をご説明し相談して決めていきます。転移のある進行している膀胱がんの患者さんには薬物治療(抗がん剤および免疫療法)中心となりますが、全国的にも数の少ない泌尿器腫瘍の専門の腫瘍内科医と連携して治療に当たっています。

腎がん

古くは血尿や脇腹の痛みで診断されることがありましたが、近年は健診で見つかる無症状の方が多くなりました。以前より小さい腎腫瘍が見つかり受診されたり、ご紹介いただくことが多くなりましたが、小さい腎腫瘍では腎がんか判断が困難なことが珍しくありません。しかし、小さい場合には腫瘍の部分だけを摘除する部分切除が可能なことが多いため、腎がんを否定できない場合には積極的に手術治療を行っております。方法としては、以前は開腹手術が主流でしたが、当科では85-90%を低侵襲な治療である腹腔鏡下手術、ロボット支援手術で行っております。部分切除が適応ではない大きな腎がんの場合には、これまで腹腔鏡下手術もしくは開腹による腎摘除を行ってきましたが、2022年度よりロボット支援手術が適応となりました。腫瘍が大きく難度の高い腎摘除でもなるべく開腹ではなくロボット支援手術を導入しています。転移を認めたり、周囲に浸潤し手術による根治が困難な進行している腎がんでは、通常は免疫療法を中心とした薬物治療の適応となりますが、転移巣切除や拡大切除と併用して根治を目指せる場合もあります。前述のように数の少ない泌尿器腫瘍専門の腫瘍内科医と連携して治療にあたり、最新のエビデンスに基づいた医療をご提供しております。

上部尿路がん(腎盂がん、尿管がん)

泌尿器科がんの中でも前立腺がんや膀胱がんと比べて頻度は低く、あまり聴き慣れない悪性疾患だと思います。特徴は上部尿路である腎盂や尿管へのアプローチの困難さから腎盂がんや尿管がんの診断が難しいことです。それに加えて腎盂や尿管の壁は薄いため進行が早く治療も難しい疾患です。当科の特徴を生かして疑わしい場合には早めに精密検査や手術治療を行うことができます。手術治療は主に腹腔鏡下手術を中心にしておりますが、進行している腎盂がん、尿管がんは開腹もしくはロボット支援手術による広範囲のリンパ節廓清を行い根治を目指します。すでにリンパ節や遠隔臓器への転移を認める場合には抗がん剤治療や免疫治療が中心となります。また、場合により手術と術前術後の補助化学療法を併用することでさらに根治を目指すこともあります。

精巣腫瘍

他の泌尿器科悪性疾患と一線を画して、比較的若い患者さんに多い疾患です。陰嚢にしこりがあるという訴えで来院されます。精巣腫瘍の診断は容易ですが、精巣腫瘍には細胞レベルで種類があり、正確な診断と治療的意味合いも含めて精巣摘除を行います。進行が早い悪性腫瘍であるため、外来受診後1-2週間以内に速やかに手術の予定を立てます。リンパ節や他の臓器への転移を認める場合があり、抗がん剤を中心とした薬物治療から手術治療、放射線治療と選択肢があります。転移のある進行癌でもリスクに沿った適切な治療で根治が高い確率で期待できる腫瘍です。我々は前述のように数の少ない泌尿器腫瘍専門の腫瘍内科医と連携して抗がん剤治療や放射線治療と手術を組み合わせて確実な治癒を目指しています。また、今後お子さんを作られる場合には、抗がん剤治療を行なっている時期には造精機能は落ちますので当院では精子の凍結保存が可能です。ともかくも、早期の診断治療が大事な疾患です。お若い方は羞恥心もあると思いますが、躊躇わず受診することが大事です。

後腹膜腫瘍

泌尿器科が扱う臓器は腎臓からはじまり尿管、膀胱、尿道の尿路と腎臓に隣接しているホルモンの分泌調整臓器である副腎に加えて、男性の場合には前立腺、精巣と生殖器臓器と広範囲におよびますが、その多くは後腹膜と呼ばれる領域に存在します。そのため、後腹膜にできる疾患である後腹膜脂肪腫、後腹膜平滑筋腫、リンパ管腫などの良性疾患や後腹膜のがんである後腹膜肉腫も対象となります。特に後腹膜肉腫は診断が難しく、切除病変の詳細な病理検査や遺伝子検査などが必要になる場合がありますが、病理部とも連携して正確な診断を心がけ、進行例では泌尿器腫瘍専門の腫瘍内科医と連携して適切な薬物治療を施行しています。中でも後腹膜に発生する脂肪肉腫が後腹膜悪性腫瘍の中で最多で、根治的治療は通常手術治療だけです。無症状で進行が緩徐なため腫瘍の大きさが大きい傾向があったり再発率の高さが問題とされます。他の科との連携が強い当院の特徴を生かして、腹部外科や胸部外科と合同手術を行うこともあります。また、希少な疾患ですが、これまでの当院での治療の蓄積がございます。ぜひご相談ください。

良性疾患

副腎腫瘍

副腎は左右の腎臓の頭側にある数cmの平らな臓器で、血圧や血糖、性ホルモンの分泌をしている重要な器官です。副腎にできる腫瘍の90%以上は良性腫瘍ですが、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、副腎褐色細胞腫などのホルモンを異常に分泌する腫瘍の場合には手術適応となります。また、腫瘍が他のがんの転移であったり、4cm以上と副腎がんが否定できない場合にも手術が選択されます。中でも褐色細胞腫は高血圧の原因になり、周術期の血圧のコントロールが非常に重要なため当院では専門である内分泌代謝内科と連携して入院治療にあたっています。手術は主に良性腫瘍に対して行われる低侵襲な腹腔鏡手術から副腎がんのような悪性度の高い場合には周辺の臓器を合併切除する拡大手術まで幅広く対応しています。2022年度からはロボット支援手術で行うことができるようになり、腹腔鏡手術では困難な場合に導入しております。

前立腺肥大症

男性は加齢に伴い、前立腺が肥大(大きくなること)していきます。前立腺の中心には尿の通り道である尿道が走っており、肥大によって排尿しづらくなる場合には治療が必要です。治療は尿道を広げる薬物治療から始まり、程度によっては手術治療を行います。前立腺肥大の部分は尿道に面する内側の部分(移行域と呼ばれる領域)なので、手術治療は経尿道的に内視鏡で行われます。当院ではホルミウムレーザー(HoYAG)を使用し、出血の少ない、肥大部分の取り残しの少ない低侵襲な手術治療(HoLEP)を行なっております。HoLEPは最近では年間100件を超え全国的にも有数の手術件数です。「前立腺が大きすぎて手術が困難」と言われた、「血液をサラサラにする薬を内服しているために手術を勧められない」と他院で判断されたという方が、最近でもご紹介され当院で手術治療を行うことがよくあります。前立腺肥大症はがんのように命に関わる疾患ではありませんが、尿を気持ちよく出せない生活の質の低下は高齢化社会で大きな問題です。

尿路結石

性別、年齢を問わず有病率の高い疾患です。男性では7人に1人、女性では15人に1人が一生に一度罹患すると言われています。多くは腎臓で尿中の結晶が析出して発生しますが、90%以上が溶けない結石であり予防が大事です。残念ながら大きくなった結石は、放置すると血尿や疼痛の原因になったり、尿のスムーズな通過を阻害することもあり、治療適応となります。治療には体外衝撃波による砕石(SWL)と内視鏡的レーザー砕石(TUL、PNL)の2種類があります。どちらも砕石する侵襲の低い治療ですが、それぞれの特徴があり患者さんと相談して決めていきます。結石は小さければ比較的短期間で治療が終わりますが、1cm以上と大きい場合には月単位の治療期間を想定しておいた方がいいと思います。結石に細菌がつくと重篤な敗血症に至ることもあり、「よくある」疾患ですが、あなどれない疾患です。まずは結石の状態を評価し、先を見据えて治療方針を相談します。

過活動膀胱

過活動膀胱は我慢ができないような強い尿意が突然起こる症状(尿意切迫感)を主な症状とする状態ですが、それに伴い頻尿や尿失禁(尿もれ)を認めることがあります。頻度は年齢とともに上昇し女性の頻度が高いですが、およそ5-20人に1人の割合で認められ稀ではありません。その原因や詳しいメカニズムはわかっておらず根本的に解決する治療法はありません。生活に支障を来たす場合には、対症療法ですが膀胱の活動を和らげるための飲み薬や貼り薬を使用することがあります。それでも効果が乏しい場合にはボツリヌス療法を行うことがあります。ボツリヌス療法はボツリヌス菌がつくる天然のタンパク質(A型ボツリヌス毒素)から精製された薬を内視鏡を用いて膀胱の筋肉の壁に直接注射する治療法です。毒素を排尿の筋肉に投与することで異常な筋肉の収縮を抑えます。ボツリヌス菌を注射するわけではありませんので菌に感染する心配はありません。効果は治療後2-3日で現れ、4-8ヶ月ほど持続します(効果の程度や持続期間には個人差があります)。これまで過活動膀胱で治療を受けられるも効果が不十分な場合には是非ご相談ください。

診療体制

部長を含め9名の医師で診療を行っています。泌尿器科学会認定の指導医2名、専門医6名とレジデント医師で構成されており質の高い医療を担保するとともに、専門性の高い領域では、がん治療認定医2名、腹腔鏡技術認定医3名、ロボット支援手術プロクター4名、ロボット手術認定医6名と様々な疾患に幅広く対応しております。
外来診療は主に外来担当医による診療ですが、患者さんの疾患により、毎日行っているカンファレンスで方針をスタッフ全員で相談してから最適な治療法をご提案するようにしています。入院診療も外来担当医がそのまま主治医となります。入院中の診療は手術治療を中心にチーム医療を実践しており、主治医以外にもレジデントによる回診も毎日行なっております。患者さんの訴えに迅速に対応すること、不安を抱かないように安心・安全な入院生活を送っていただけるように泌尿器科医師全員で患者さん一人一人の情報を共有しております。
また、がん診療では以前からオーダーメイド医療(個別化医療)が注目されております。患者さん一人一人の疾患、年齢、持病、価値観や社会的背景などから最適な治療法を一緒に考える診療のことです。当科では個別化医療をご提供するために、泌尿器科だけではなく、薬物療法専門の腫瘍内科、放射線治療専門の放射線科、病理診断科、画像読影の放射線科、専門看護師など他科の医師や職種の方々とのチーム医療を実践しています。

特集

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