認知症科

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メッセージ

認知症は大脳の障害部位によりさまざまな症状が出現し、日常生活を脅かします。病気の背景には「老化」があり、高血圧・糖尿病などの危険因子があります。また、さまざまな精神症状により介護家族の負担は大きく、患者さんとの関係が難しくなることもあります。

認知症は社会、医療、介護、福祉にわたる壮大なテーマです。これら広範な事象を整理し、医療でもう一度とらえなおそうと新しい診療科を立ち上げ、『認知症科』と名付けました。

『認知症科』では以下の3つの観点からものごとを考えます。

  • 老年医学の観点では、「老化」をベースに全身状態を考え、認知症を悪化させる危険因子を管理し、社会における患者さんの日常生活を重視します。
  • 神経内科の観点では、大脳のどこの障害により症状が起きたのかを神経学的所見、高次機能検査、画像診断で評価し加療してゆきます。
  • 精神科的観点では患者さんの精神症状の評価と管理を行い、家族と患者さんの関係も考慮します。

このように認知症を病気の観点だけではなく、患者さんの生活や人生そのものを総括的に捉えて心身機能を評価し、どのような医療が必要なのかを考えてゆきます。

【虎の門病院認知症科パンフレット2022】はこちらから

扱う疾患

治療可能な認知症を起こす病気として甲状腺機能低下症、肝性脳症、ビタミンB1/B12欠乏症、葉酸欠乏症, 梅毒、AIDS脳症、髄膜炎、正常圧水頭症、うつ病などがあります。これらがあるかどうかを検査し、その後大脳MRIで大脳萎縮の部位や脳血管障害の有無、正常圧水頭症の有無を拝見し、脳血流シンチで血流の低下部位を探します。最終的にアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などと診断がつきます。

当科の特徴

当科は認知症の関わるすべてのことを行うことを目指してH27 /7月に発足した診療科です。認知症の診断といっても高次脳機能障害の有無や短期記憶だけをみるのではなく、全患者さんの神経学的所見をとり、麻痺があるのかパーキンソン症状があるのかを検討し、腱反射や歩行の状態も評価します。パーキンソン症状があれば、MIBG心筋シンチやダットスキャン(ドパミントランスポーターの分布)を行いレビー小体型認知症との関与を考えます。また歩行障害があれば脳血管障害の有無や転倒しやすい内服薬の確認を行います。このように全身を総合的に拝見することでより適切な診断を行います。

また、若年性認知症や認知症超早期診断として、ウェクスラーメモリースケールなどのより細かい記憶力の検査や、髄液のアミロイドβ42蛋白やタウ蛋白の測定も検討しますので気軽にご相談ください。

検査の特徴

当科では多様な各種検査を行います。日常生活障害の指標にはDASC8を用い、高次脳機能検査はMMSE, 改訂長谷川式,MoCA-J、アルツハイマー病評価スケール(ADAS-cog-J)FAB(frontal assessment battery)、時計描写検査、ノイズパレイドリアテスト、CDR、老年期うつ病評価尺度(GDS), やる気スコアを標準検査とし、必要に応じウェクスラー記憶検査やウェクスラー知能検査を行います。神経学的所見とこれらの検査で大脳の障害部位を見極めた後、さらに全方向性大脳MRI、脳血流シンチグラフィー、ドパミントランスポーターシンチグラフィー, MIBG心筋シンチグラフィーなどの最先端画像診断を駆使し、診断基準に準拠し的確に診断します。厳密に対象者を絞り込み、診断が難しい認知症や超早期診断のために髄液検査でアミロイドβ蛋白質やリン酸化タウ蛋白質を測定します。

そして以下の2つの特殊な外来も設けています。

  • 先進医療外来:最先端の髄液検査をもとに診断から治療へつないでゆく外来です。
  • ケアラー外来:認知症が発症すると家族は患者と適切な関係を築けず、潜在的な家族問題が一気に表在化することがあります。「認知症は極めて家族的な病」であり、家族の精神的なサポートが必要です。「認知症」の解釈を「ありのままを認めそのこころを知る」と変え, 家族や社会が患者を受け入れる「受容の問題」にも向き合います。

確実に診断しましたら治療方針を決め介護保険を導入し、かかりつけ医の先生と一緒に認知症の患者さんを地域で支えられるよう努力します。

受診の際のお願い

受診には紹介状が必要で、ご家族と一緒にお越しください。認知症の症状はご本人に伺っても発見しにくい事があり、家族の方に伺う簡単な検査を行います。また、ご家族の方は必ず患者さんにもの忘れの検査することをお伝えになってからお越しください。診察室で患者さんに聞かせたくないことがありましたら、紙に書いて提出してください。皆さまのご期待にお応えします。

診察の流れ

① 初診
 ➡問診:現病歴、既往歴、家族歴, 学歴・職歴, 利き手, 生活歴 の徴取
 ➡診察、神経学的所見
 ➡血液検査:内科疾患に伴う認知症の鑑別
  VitB1,B12, 葉酸, 甲状腺機能(TSH,fT4),アンモニア, HIV, 梅毒
 ➡下記の画像検査の予約
 ➡身長・体重測定

② 検査のみ来院
 ➡画像検査 ・大脳MRI 、脳血流シンチグラフィー(SPECT)
 ➡高次脳機能スクリーニング検査:MMSE, HDSR, MoCA-J, ADAS-cog, FAB,
                 GDS, CDR, やる気テスト, ノイズ・パレイドリア検査
 ➡脳波 

③ 再診 上記検査の結果説明 
 ➡パーキンソン病やレビー小体型認知症が疑われると追加検査オーダー
  ➡MIBG心筋シンチ
  ➡DAT scan
 必要に応じ
  ➡WAIS-IV, WMS-R などの知能検査と詳細な記憶検査
  ➡髄液検査(Aβ42, pTau181, tTau)、嗅覚検査

④ 介護保険の申請

⑤ 家族の希望で、ケアラー外来受診(※家族のための外来です)

⑥ 投薬管理

⑦ かかりつけ医に逆紹介

症状別対応の特徴

対象となる患者さんの年齢や症状によって、検査の精密度や医師のかかわり方が変わってきます。ここで一つ一つ説明していきます。

  • 若年性認知症

おもに40代後半から60代前半にもの忘れが出現し、仕事や日常生活が困難になった方です。精神科の病気や適応障害など、必ずしも認知症が原因とは限りません。患者さんには大きな不安が伴い、その不安にどのように対処したら良いのか、向き合う医療が求められます。診断が難しく、てんかんや甲状腺機能亢進症など治療可能な認知症をきちんと見極め、最後には認知症の異常タンパク質を測定し確実に診断することが大切です。進行性の認知症だと解れば、社会制度を利用しながら早期に今後の生活設計を考える必要があり、これからの新規病態修飾薬の適応になる場合もあります。

  • 主観的ものわすれ

周囲からおかしいと思われていなくても、最近ものわすれがひどくなったと感じることがあります。仕事に影響が出ると困ると心配される方も多くいます。とくに知的判断力が必要とされる方はその不安は一層大きいものです。認知症は、高学歴、知的なお仕事な方では発症が遅く、発症すると進行が早いことが知られています。年齢相当の物忘れだと自分に言い聞かせず思い切って相談してください。治療可能な認知症をきちんと除外することが極めて重要です。薬剤が原因で生じる薬剤性認知症や精密検査をやっても正常なのに何度も脳波をとり、やっとてんかんと診断され良くなった方もたくさんいます。さらにアルツハイマー型認知症なら発症の約25年前から髄液中のアミロイドβ42が低下しており、髄液検査で診断がつくこともしばしばです。

  • 他覚的ものわすれ

自分では認知症の自覚はないものの、会社や家族から認知症ではないかと指摘を受けることがあります。認知症と診断される恐怖や不安はつきものですが、だからこそご相談ください。その際には家族とご一緒に来院してください。自分では気づかない症状をご家族から聴取することが大切だからです。認知症の診断には、本人の自覚、周囲からの情報、病状の変化、医師の見立て、臨床心理士の客観的な心理検査(高次脳機能検査)や画像診断など、いろいろな角度から病気を診断してゆくことが求められます。

  • 軽度認知機能障害

日常生活には支障はありませんが、客観的な心理検査(高次脳機能検査)では同じくらいの年齢の人と比べて点数が低い状態をいいます。すでに大脳の画像診断ではアルツハイマー型認知症の所見が見られることがあります。糖尿病や高血圧があり、過量なアルコール摂取などで認知症の発症リスクが高い方もいます。いずれにしろ放置せず、是非前向きな医療を受けてください。経験豊かな診療をお約束致します。

  • 治療可能な認知症

文字通り治療可能なので、症状が進行する前に適確に診断する必要があります。アンモニアが上昇しておこる肝性脳症、ぼーっとして足がむくむ甲状腺機能低下症、アルコールの大量摂取で生じるビタミンB1欠乏症、胃を取ってしまった方に多いB12欠乏症、貧血も生じる葉酸欠乏症、一時的に記憶がなくなるてんかん、転んで頭を打ったあとに出る慢性硬膜下血種、様々な薬で生じる薬剤性認知症、性感染症で有名な梅毒、エイズなどです。

  • 認知症 (アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症など)

一度正常に発育した方が大脳に障害をもち日常生活に支障をきたした状態を認知症といいます。意識障害やせん妄とは違い、発症するともとに戻らなくなります。だからこそ、早めの受診が必要です。認知症といっても約70から100ほどの種類があり、それをひとつひとつ見極めてゆきます。治療可能な認知症も多くあり、いくつかの認知症が重なることもあります。
また、認知症の場合には、患者さんだけではなくご家族の関わりにも注目する必要があります。私はこれを「認知症は極めて家族的な病である」と呼び、ケアラー外来でご家族と向き合います。この際、重要なのは、認知症患者さんもそのご家族も認知症ときちんと向き合えるのか、ということです。病気を受け入れること、認知症の患者さんを受け入れることは極めて難しいのです。診断だけではなく、患者と家族の関係まで踏み込むことが認知症科の特徴になります。

  • 特殊な認知症(神経変性疾患による認知症)

大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、など稀な神経変性疾患によって生じる認知症があります。診断が難しく進行が早い疾患が多く、適確に診断し特定疾患や介護保険の申請が必要です。ちょっとおかしいなとお気づきでしたら受診をお勧めします。

  • 混合型認知症

80歳を過ぎるといくつもの認知症が重なりやすくなります。アルツハイマー型認知症の記憶障害がメインであった方にレビー小体型認知症のパーキンソン症状が出たり、アルツハイマー型認知症に葉酸欠乏症や血管性認知症が合併することもしばしばです。どの認知症が最も影響を与えているのかを見直し、それを改善させるにはどうしたらいいのか、考える必要があります。

  • 高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症など)

アルツハイマー型認知症と診断されたのに症状があまり進まず、嗜銀顆粒性認知症だったということがあります。この病気はアルツハイマー型認知症とは異なり、進行がおそく日常生活の障害が生じにくいのが特徴です。しかし、診断が難しく、より深くよりきめ細かく診断することが求められます。アルツハイマー型認知症と診断されたうちの約2030%に高齢者タウオパチーが含まれています。

  • その他

アルツハイマー病治療薬であるレケンビ®の投与ついて

1.レケンビ®の投与対象と最終的な治療決定まで

レケンビ®の投与対象はアルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症に限定されています。初診時の診察(神経学的所見)およびその後の検査(神経心理学的検査、大脳MRI、脳血流シンチグラフィー、MIBG心筋シンチグラフィーなど)の結果、一定の基準を満たすと、アルツハイマー病の原因蛋白質のひとつであるアミロイドβの蓄積を調べる画像検査(アミロイドPET)を予約し実施します。(もの忘れの原因がアルツハイマー病ではない場合、原因がアルツハイマー型認知症であっても認知症の程度が中等度以上の場合、大脳MRIで微小出血など治療の副作用のリスクが高い所見を認めた場合は対象外となります)アミロイドPETでアミロイドβの蓄積が見られ、レケンビ®による治療の対象と判断された場合、検査結果の説明の後、ADボードという病院の多職種からなるチームで治療ができるかどうか最終的に決定されます。詳しくは、担当医師にお聞きください。

2.アミロイドβの蓄積を調べる検査

アミロイドβの蓄積を証明する検査としては、アミロイドPETという核医学検査と、髄液検査がありますが、当院では侵襲の低いアミロイドPETをお勧めしております。

■髄液検査のこと

一定の条件を満たした患者さんのみ検査の適応があります。腰の背骨の間の軟部組織に針を刺し(腰椎穿刺、背骨には刺しません)、透明な液体(髄液)を採取しその中の異常な蛋白質の量を調べる検査です。一般に、0.9-20.3%の頻度で施行後に頭痛(硬膜穿刺後頭痛)が生じると言われていますが、高齢者では生じにくく、比較的安全な検査と言われています。当科では、採血で使用する針よりもさらに細い穿刺針を使用することで痛みを減らし、頭痛の発症率は約1.6%です。もし頭痛が生じても安静にすれば1週間ほどで自然に消失し、後遺症が残ることはありません。診断が難しい若年性認知症では必須の検査で、軽度認知機能障害(MCI)や無症状の方もアルツハイマー病と診断できる場合があります。一般的な診断方法よりも精度が高く、今後認可されると思われる病態修飾薬の適応を決めるうえでも非常に重要な検査です。

■受診後のこと  

認知症の専門医による診断と加療開始後、介護保険を導入しかかりつけの医院にお返しします。かかりつけ医がいらっしゃらない方は近隣の医療機関を紹介させていただきます。ただし、軽度認知機能障害(MCI)の方は、1年以内に認知症になることがありますので半年後の受診をお勧めしています。一度、診断されても数年ごとの定期的な検査をご希望される場合は、医師にご相談ください。適宜、対応させていただきます。

【参考図書】

認知症 ありのままを認め、そのこころを知る-虎の門病院 認知症科の考え方 
井桁之総著、論創社刊

かかりつけ医の先生方へ

必ず患者さんにもの忘れの検査することと、ご家族と一緒にお越しくださいますようお伝えください。 認知症の診断は極めて難しく鑑別診断は70疾患以上にもおよびます。治療可能な認知症を除外し早期に適切に診断することで、早期から介護者を保護し、病気の進行過程を予想し生活様式や環境を整える対策をいち早く立てられます。診断後は、かかりつけ医の先生と地域包括医療を行うことで障害を持っても今までと同じ生活ができるように様々な工夫をして参ります。認知症患者との共生の社会の構築を目指し、紹介医の先生方との連携を心からお願い申し上げます。ご質問は、事前に医療連携室へお問い合わせください。また、ケアラー外来のご予約はお電話で受け付けております。

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