消化管センター外科(下部)
このページを印刷
このページを印刷
この時代になしうる最良の大腸癌治療、腹部疾患治療を目指して
当科は大腸癌の鏡視下手術(ロボット手術と腹腔鏡下手術)を専門としており、大腸癌のほぼ全例に鏡視下手術を行います。スタッフは全員が日本内視鏡外科学会技術認定を取得しており、単に実施するだけではない 質の高い鏡視下手術を行います。また当科は地域に根差した救急病院の消化器外科として、専門である癌手術のみではなく、急性腹症、腹部ヘルニア、肛門疾患などの手術も多く施行しています。二次救急病院への移行とともに緊急手術件数が増加していますが、その時も少しでも負担の少ない治療を目指して積極的に鏡視下手術を行います。
当科は消化器内科と共に「消化管センター」として内科・外科が緊密に連携しながら診療に当たります。そのため当科に紹介された方が内科治療の適応と判断されて消化器内科で治療を受ける、消化器内科に紹介された方が必要に応じて当科で手術を受ける、と言うことが日常的に行われています。これは当院消化管センターが病院の理念である「その時代時代になしうる最良の治療を提供すること」を目指し、常にひとりひとりの「最良の治療」を追及していることの証です。
大腸癌の発症率は男性では前立腺癌に次いで2位、女性でも乳癌に次いで2位ですが、男女合わせると1位です。そのため当院消化管センターで手術件数が一番多い消化管癌です。当科はかなり早期の1998年から大腸癌腹腔鏡下手術を導入し、近年は年間100件前後の大腸癌手術の約98%を鏡視下手術(ロボット手術と腹腔鏡下手術)で行っています。大腸癌は肛門に近い直腸にできることが多く、直腸癌の手術では人工肛門が必要になる可能性があります。当科では肛門に近い直腸癌でも鏡視下手術の繊細な操作で確実に癌を取り去ると同時に肛門を温存する、高度進行癌でも放射線治療や抗がん剤治療を手術に組み合わせて根治性を保ちながら肛門温存をする、といった治療を得意としています。2010年の術前化学放射線療法導入後からの豊富な経験をもとに、放射線治療や抗がん剤治療が著明な効果を示し、見えなくなるぐらい腫瘍が縮小した場合はすぐに手術を行わずに積極的に経過観察を行う非手術療法(Non-Operative Management:NOMまたはwatch and wait治療 等と呼ばれる)も行っています。
急に腹痛を起こし病院を受診する必要がある病状を急性腹症と総称します。急性腹症には以下のような病気があります。
生涯で7~8%の人が発症すると言われるよくある疾患です。俗に「もうちょう」と呼ばれています。当院で手術を行う急性腹症の中でも一番多い疾患です。実は手術なしで治癒することも多いのですが、炎症・症状が強い時や何度も炎症を繰り返す場合は手術を行います。緊急手術であってもほぼ100%腹腔鏡下手術を行います。炎症を起こしている虫垂のみを切除する「虫垂切除」がほとんどですが、炎症が強くて広がっていると腸ごと大きく切除して腸をつなぎ直す手術が必要になる場合もあります。その場合でも当科では腹腔鏡下手術を行います。
大腸の壁に筋層がうすい部分ができて外側に膨らんだ部分を「憩室(けいしつ)」と言います。加齢とともに増え60歳代では50%、80歳代では70%の人が憩室を持っていると言われています。もともと日本人には少なかったのですが、欧米化した生活スタイルのために最近増加傾向です。憩室はあるだけでは症状や問題はありませんが、炎症を起こして「憩室炎」になると腹痛・発熱を起こして受診が必要になります。ほとんどは手術せずに治りますが、何度も繰り返して治りにくくなったり(難治性憩室炎)、憩室が破れて腹膜炎になったり(憩室穿孔)、膿がたまったり(膿瘍形成憩室炎)、膀胱とつながったり(結腸膀胱瘻)すると手術が必要になります。手術となった場合も、憩室穿孔で腹膜炎が強い場合を除いてほぼ全例に腹腔鏡下手術を行います。特に、以前から結腸膀胱瘻に対する腹腔鏡手術を得意としており、当院からの学会・論文の発表が多いこともあり、多数の紹介を頂いております。
腸の通りが悪くなって排ガス・排便が停止して腹部が張り、痛みや嘔吐を伴う疾患です。多くは腹部手術を受けたことがある方に起こり、以前の手術の癒着(傷がくっつくこと)が原因で起こります。その場合は絶食・点滴で手術せずによくなることがほとんどです。しかし中には腹壁のヘルニアの嵌頓(かんとん:はまって戻らなくなること)や、腸がねじれることや、腫瘍で詰まることが原因の場合があり、その際は緊急~準緊急で手術が必要になる可能性があります。その場合でもおなかの張りが強すぎなければ腹腔鏡手術が可能です。
食事の通り道である消化管(食道・胃・十二指腸・小腸・大腸)に穴が開くことを消化管穿孔と言います。以前は胃・十二指腸潰瘍が悪化して穴が開く消化管穿孔が一番多かったのですが、薬剤の進歩とピロリ菌の除菌により胃・十二指腸潰瘍がほとんど内科治療で治癒するようになり、胃・十二指腸潰瘍穿孔は少なくなりました。現在は大腸穿孔の割合が高く、その原因としては大腸憩室や大腸癌が挙げられます。大腸穿孔の場合、便がおなかに漏れると強い腹膜炎を起こすため、なるべく短い時間で手術を終える必要があり、腹腔鏡手術が適応にならない場合があります。腹膜炎の程度が強くない場合は腹腔鏡手術を行います。
腹部のヘルニアはおなかの壁が緩くなり、そこから腸や腸の周りの脂肪が皮膚の下まで飛び出してくることを言います。出る場所によりいろいろなヘルニアがあります。なお、ヘルニアという言葉には「脱出する」という意味があります。ふつうは命にかかわる病気ではなく必ずしも手術しないといけないわけではありませんが、手術以外には治す方法がありません。
足の付け根を鼠径部(そけいぶ)と言いますが、おなかの壁が緩くなりやすい場所です。鼠径部のヘルニアを鼠径ヘルニアと言います。緩くなった腹壁を人工繊維のメッシュシートで閉じる手術を行います。メッシュシートの入れ方は、鼠径部を5~6cm切る前方切開法と、おなかに12~5mmの穴を3か所のあける腹腔鏡手術の2通りがあります。ヘルニアの治りやすさは一緒ですが、違うのは麻酔、手術時間、傷の痛みです。前方切開法は通常腰椎麻酔(腰に注射して下半身だけ麻酔する)で行うのに対して腹腔鏡手術は全身麻酔が必要です。手術時間は前方切開法の方が短いですが、傷の痛みは腹腔鏡手術のほうが少ないです。
以前の手術で切った場所が、腹圧がかかった時に膨らみます。やはりメッシュシートで緩い場所を覆う手術を行います。当科は切開法で行うことが多いです。腹腔鏡手術も可能ですが、かなり大きなメッシュが必要になることが多く、おなかの中でメッシュを広範囲に縫い付ける必要があることから傷が小さい割に、術後の痛みが強くなってしまうことが多く、切開法での再発例や複数か所のヘルニアなどの特殊な場合に行うほうが良いと考えています。
臍は他の場所より腹壁が薄く、ヘルニアが起こりやすいです。肝臓や腎臓など病気や肥満などで腹圧が高い人が多いです。緩い場所が小さい場合は単純に縫合閉鎖する手術でもよいですが、腹圧が低くなる見込みが少ない場合が多くメッシュシートを入れるほうが再発率が低くなると考えています。
鼠径部のヘルニアのごく一部は、緩くなった位置が鼠径ヘルニアと微妙に違い、大腿ヘルニアと呼ばれます。女性に多く嵌頓(かんとん:腸がはまって抜けなくなること)して緊急手術になることが鼠径ヘルニアより多いです。
骨盤に閉鎖孔という神経と血管が通過する穴がありますが、通常はその神経と血管を脂肪が取り囲んでいるのでスペースは無いのですが、主にやせた女性で脂肪が少なくその穴が空いており、そこに腸が嵌頓(かんとん:腸がはまって抜けなくなること)して緊急手術になる場合があります。
肛門疾患は全身麻酔ではなく腰椎麻酔で手術が可能である場合が多く、肛門科のクリニックで手術が行われることが多いです。当科では他の病気で当院に通院中の方や全身麻酔が必要な手術を要する方に手術を行うことが多いです。
肛門は血管が豊富です。その中の静脈がこぶになって排便時に飛び出してくることを痔核と言いますが、腸側のものを内痔核、皮膚側のものを外痔核と言います。出血や脱出が問題になります。出血はほとんどが軟膏で対処できて手術しないことが多いですが、脱出するほど痔核が大きくなると手術以外では改善しにくくなります。痔核に流入する血管を結紮(けっさつ:しばること)して痔核を切除する「結紮切除法」が標準手術です。内痔核に対しては特殊な薬剤を注射して痔核を縮める治療もあります。
お尻から直腸が飛び出してくるようになる病気です。腸が長く、肛門の括約筋(かつやくきん:締める筋肉のこと)が緩くなっている方に起こります。ほとんどが高齢女性で、80~90代の方が多いです。命にかかわる病気ではないですが、日常生活でかなり困ってしまう方は手術を希望する方が多いです。ご高齢の方は他の病気も持っている方も多く、肛門科クリニックでの手術リスクが高い場合は当科に紹介頂きます。腰椎麻酔下に経肛門的に腸管を切除して短くする手術(デロルメ手術・アルテマイヤー手術)や、全身麻酔下に腹腔鏡で直腸を吊り上げる手術を行います。当科は豊富な直腸癌手術の経験から、直腸脱手術時の直腸周囲剥離を得意としています。一般に腹腔鏡下直腸吊り上げ術は全身麻酔が必要ですが再発率が低く、経肛門手術は腰椎麻酔で手術可能ですが再発率が直腸吊り上げ術より高いです。ご本人の状況をよく把握して手術方法を決定しています。
肛門近くの腸から外に細菌が侵入してお尻の周りに膿がたまることを肛門周囲膿瘍と言います。肛門痛と発熱で来院され、緊急で膿を出す処置が必要になることが多いです。膿が浅い場合は局所麻酔(麻酔の注射したところだけ痛くなくなる麻酔)で入院せずに切開排膿処置が可能ですが、膿が深い場合や大きい場合は腰椎麻酔のほうが楽に処置を受けられます。その場合は緊急入院していただきます。
肛門周囲膿瘍の排膿後に膿が出る穴が閉じず、腸側の入り口から皮膚の出口までの瘻孔(ろうこう:つながったあな)が残る状況を痔瘻(じろう)と言い、完成してしまうと膿が出続ける状況となり、治すためには手術が必要になります。瘻孔が浅い場合は瘻管解放術を行い、深い場合は瘻孔のくり抜き術を行います。また瘻孔が枝分かれする複雑痔瘻の場合やクローン病という自己免疫疾患に伴う特殊な痔瘻の場合はSeton法というゴムを通す手術を行うことがあります。ご本人の状況をよく把握して手術方法を決定しています。
主に下部消化管(大腸、小腸)の外科疾患を扱っています。大腸癌(結腸癌や直腸癌)を中心に、急性腹症(虫垂炎、腸閉塞 など)、腹部のヘルニア(鼠径、臍、腹壁)や肛門疾患(内痔核、直腸脱、肛門周囲膿瘍/痔瘻)の手術も行っています。また、これらの手術において積極的に腹腔鏡手術を導入しており、豊富な経験と安全・確実な手技により、病気の根治性を高めつつ、患者さんの早期回復を目指しています。
鏡視下大腸切除を得意にしています。
令和7年の鏡視下手術率は、大腸癌手術で100%でした。